共創のまちぐらし

令和7(2025)年7月12日(土)に函館市青少年研修センター(ふるる函館)において、地域住民のみなさまなど約30名の参加のもと、函館市西部地区再整備事業基本方針に定める「共創のまちぐらし推進プロジェクト」の一環として、「函館西部まちぐらし共創サロン」を開催しました。(開催のお知らせはこちら)
令和7(2025)年度 第2回 函館西部まちぐらし共創サロン開催結果(概要)
開催日時
令和7年(2025年)7月12日(土)午後1時30分から午後4時まで
開催場所
函館市青少年研修センター(ふるる函館)1階 大研修室(谷地頭町5番14号)
開催趣旨
函館市西部地区再整備事業基本方針に掲げる重点プロジェクトの一つである「共創のまちぐらし推進プロジェクト」における取組として、令和4(2022)年度から、「西部地区における共創のまち育て」をコンセプトに、地域住民をはじめ、市民やまちづくりに関わる参加者が西部地区の未来を考え、共有し、まちぐらしを語り合う場として「函館西部まちぐらし共創サロン」(以下「共創サロン」という。)を開催しています。
今回は、西部地区の課題の一つである空家問題について、リノベーションによる再生、利活用、移住・関係人口の増加を促すためのヒントを探るため、小田原市を拠点に、古民家や空家のリノベーションなどを通じてまちの魅力を創出している山居是文氏を招き、トークイベントを開催しました。
開催内容
1. 市の取組に関する説明
函館市西部まちぐらしデザイン室から、函館市西部地区再整備事業基本方針に基づく市の取組について紹介を行いました。
【紹介内容】
①函館市西部地区再整備事業基本方針について
・函館市では、人口減少や少子高齢化、空地・空家の増加など課題を抱える西部地区について、定住人口の回復と交流人口の底上げを目的として、令和元(2019)年度に基本方針を策定し、課題解決に取り組んでいる。
②共創のまちぐらし推進プロジェクトについて
・令和4(2022)年度から、「まちを学ぶ場」として、共創サロンを開催しており、テーマや開催方法を変えながら、幅広い世代に参加していただいている。
・共創サロンをきっかけに交流が生まれ、新たなまちづくり活動につながることもある。
③町会活性化プロジェクトについて
・町会と一緒に、町会の課題と課題解決のための手法を検討し、実践する取組を行っている。
・モデル町会以外の町会においても、地域の学生や企業との共創により、町会活性化に取り組んでいる事例がある。
④既存ストック活性化プロジェクトについて
・まちづくり会社により、2件の歴史的建造物の改修を行った。また、民間事業者による歴史的建造物の利活用も活発になってきている。
・学生や企業、町会などの団体が西部地区に関わることが増える中で、市内外からの移住も少しずつ見受けられるようになった。
・まちづくり会社が、西部地区において手付かずとなっている空家を中心に取得・リフォームを行い、需要に対応した安価な賃料で質の高い住宅を賃貸供給することで空家問題を解決し、居住人口の増加につなげることを目指し、子会社を設立した。
・廃校になった西小・中学校跡地について、民間事業者に売却するため、プロポーザルを行ったが、参加申込みがなかった。一般住宅などの空家の利活用も促していくことで、西部地区全体のブランド価値のさらなる向上と、移住者の増加につなげ、将来的に、西小・中学校跡地の有益な活用につなげていきたいと考えている。


2. 事例紹介
コーディネーターである株式会社Staple 早野 拓真 氏の進行のもと、ゲストから取組について紹介いただきました。
(1) 株式会社旧三福不動産 代表取締役 山居是文氏
「『ごきげんな街』はどうつくる?~旧三福不動産・山居さんに聞く街と暮らしの話」
【紹介内容】
①自己紹介
・神奈川県小田原市出身。
・大学卒業後に東京で就職し、2005年に小田原市役所に転職。退職後、東京で広告の企画制作をする会社を起業。
・2012年に小田原市に戻り、株式会社旧三福不動産を起業した。
・現在、駅から離れて家賃が安いエリアを中心に、店舗の仲介やリノベーションを行い、11年間で約120の店作りを手伝い、約220組の移住を進めた。
本取組は、国土交通省が主催する「地域価値を創造する不動産業アワードにて評価された。
②小田原市の紹介
・小田原市は「日本中の町を足すときっとこんな町になる」と思っている。
・地元愛のある人も多い。
・課題として、人口減少や空家の増加が挙げられる。
・昔は繁華街も賑わっていたが、駅前以外は人が離れており、空家・空き店舗が増えている状況にある。
・駅前などはディベロッパーが開発を進めており、チェーン店が多いなど、どこにでもある風景になっている。
・地元の商店が減っていることから、地域のお祭りが廃れていっている。
・空き店舗が流通しない原因として、所有者が修繕や管理にかかるコストや手間を避けたいと考えていたり、過去に十分な収入があったため、今すぐ貸す必要がないと考えているなど、様々な理由により、賃貸に消極的であるほか、不動産事業者は収益性が乏しいことから取り扱わないことが挙げられる。
③地域活性化のきっかけと仕組みづくり
・お祭りが廃れていくのを見て、活気を取り戻すには、地域の行事に理解があり繁盛している店舗を増やすほか、神輿を担げるような若く、かつ、地域行事に参加してくれる人も増やす必要があると考えた。
・個人店舗をまち単位で増やしていく仕組みが必要だと考え、地域の活性化に取り組みながら、自分たちが商売として継続していけるようにしなければならないと考えた。
・地域にとって必要であるが、商売として成り立たない事業の場合、行政の補助金に頼る場合があるが、補助金は持続的なものではないため、事業に発展性がないことから、採算の取れる事業を目指す必要があると考えた。
④事業モデルと取組
・空き店舗をリノベーションすることで採算性を生み出し、メディアで広報を行うサイクルを作った。
・サイクルを進めるために、まちの情報の可視化を行った。「自分の暮らしがどのように変わるのか知りたいはず」と思い、物件情報だけでなく、住人の人柄や暮らしなど、エリア一帯を知ることができるよう、情報提供を行った。
・会社のサイトを中心に人のつながりが自然と生まれた。
・店舗の借り手がいる、いないなど、各段階で取り組む内容が変わる。借り手がいない段階では、「とにかく自分がやる」ことに注力し、コワーキングスペース「旧三福」をオープンした。
・次の段階では「発掘・育成の仕組み」を作ることが必要と考え、創業支援事業により、小田原市でチャレンジしたい人を後押しして、連携する取組を増やし、6年で35組の新規事業者が生まれた。
・3番目の段階では「やりたい人が集まる仕組み」を作るため、関わった店舗を可視化していくとチャレンジしたい人が集まるようになった。
・チャレンジしたい人が増えると物件が不足するようになったため、4番目の段階として、物件を増やす取組として、家主向けの補助金制度に変更いただくよう市に要望し、実現した。
⑤まとめ
・小田原市での事業は1つのことだけではなかなか成り立たないため、あまり市場が大きくないことから、空き店舗とリノベーションとメディアを掛け合わせて進めてきた。
・複数のジャンルで100人に1人の人材になり、掛け合わせることで10,000人に1人の人材になることができるようになる。他と差別化を図ることでオンリーワンになれる。
・広告の世界においても、「アイデアは既存のアイデアの掛け合せ」と言われており、様々なものの組合せ方を考えながら取り組んでいる。


(2) 株式会社蒲生商事 常務取締役/合同会社箱バル不動産 代表 蒲生 寛之 氏
「観光都市として育てる“地域の日常”の価値」
【紹介内容】
①自己紹介
・不動産業を営むほか、宿泊施設の運営やまち案内を行ったり、青柳町会の町会長を務めている。
・観光地として認知度が高い函館であるが、旧市街(西部地区)の空家率の高さや高齢化について危機感を抱き、地域の暮らしの活力を取り戻す必要があると考え活動してきた。
・蒲生商事では不動産売買の仲介のほか、物件を買取し、賃貸を行っている。特に、旧市街(西部地区)の歴史的な趣のある物件を扱っている。
②旧市街(西部地区)の現状と課題意識
・旧市街(西部地区)は住みやすさやまち並みなど、魅力が多くある中で、Uターンし、函館に戻ってきたときに、魅力と感じていた建物が多く解体されていることを目の当たりにした。自分の好きなまちが変わってしまう危機感があった。
③空家の活用と地域活動の実践
・まちを自分の家のように見立てて、当事者意識をもってまちを考えるために、建築家とパン屋とデザイナーの4人で箱バル不動産を設立した。
・地域に根差しており、地域の情報が集まるパン屋さんと一緒に活動することで、空家のオーナーにアプローチを行った。
・移住計画を行ったことでメディアに取り上げられるようになり、それまでは自分から探しに行っていた空家などの情報が、相手から舞い込んでくるようになった。
・地域の情報を知っていただくためにマップにすることで可視化を行い、見えにくいローカルな店舗などにも注目を集められるようにした。
・歴史的建造物である大三坂ビルヂングは、建物の保存と活用について相談を受けていたことをきっかけに、自ら取得し、復元工事を行い、複合施設としてオープンした。4店舗に賃貸するほか、自らホテルも運営している。ホテルは「まちやど」という考え方で運営している。「まちやど」とは、まちを一つの宿と見立て宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値を向上していく事業である。
・従来の観光のメインは、宿泊施設の中で消費活動をすべて完結させることが多かったが、飲食や入浴は地域の施設を利用していただくことにより、まち全体を楽しんでいただくことを意識している。
・函館を訪れる人のうち、他県で店舗経営をやっているなど、個人で事業を営んでいる人が増えているので、函館を訪れた人が地域の人に自分の情報を発信し、地域と交流が生まれるような仕組み作りがしたいと思った。
・市の事業であるアーティストインレジデンスの実行委員会メンバーとして、アーティストに対し、函館を紹介し、魅力やスポットを伝えることで、アーティストに情報発信を行っていただき、函館を知っていただく取組も行っている。
・函館空港では、道南の玄関口となるために、ローカルの情報を市場のように新鮮な情報を提供するということを目的として、ローカル市場をコンセプトに「ローカルインフォメーションがっつり道南」というコーナーの設置に協力をした。また、地域で活動する方々がオススメする情報を紹介した「道南ビトカード」を設置して、ローカルな魅力を可視化している。
④まとめ
・場や情報を提供して、ヒトとマチをつなげる事業を行っている。結果として地域価値を向上させ、自分たちの事業が持続性のあるものとなるよう取組を行っている。


3.クロストーク
【内容】
①参考にした事例について
(山居氏)
・既存の不動産業はあまり参考にしていない。マーケティングや記事の発信について、暮らしを豊かにする手法やコラムを紹介している2社を参考にしており、発信を行うヒントとなった。暮らしを想像して借りようと思う仕組み作りにつながった。
(蒲生氏)
・他と同じ手法でまちづくりをしても、地域差があるため、完全に同じ取組はできないが、参考にした手法として田中元子氏の「1階づくりはまちづくり」という言葉を参考に、1階を店舗として見えるようにし、2階を宿泊施設や事務所にするというような仕組み作りを意識して1つの建物での最大利益の追求を行う考えにつながった。
②起業・移住した方の継続性について
(山居氏)
・小田原市では9割くらいは継続して事業を行っている。地域に根差した店舗が増えてほしいと思っているので、入居希望者の事業計画なども確認し、継続して入居できるのかも確認したうえで紹介を行っている。また、地元のお祭りへの参加など、地域貢献に関わろうとする事業者を選んでいることも背景としてある。
(蒲生氏)
・函館も継続して事業をやっている人が多い。店舗の特徴として、観光エリアだが、地元の人がリピートするような地域に根差した運営を行っている印象がある。


4.質疑応答
ゲストからの事例紹介やクロストークを受け、参加者から質問や意見が寄せられました。主な内容は次のとおりです。
(1) 移住者は、どのように地域と関われば良いと思うか
(移住者)
・函館山付近で商売をしているが、地域のご近所付き合いが難しいと考えている。人間関係を作るのに壁を感じている。コミュニケーションの取り方などを教えていただきたい。
(山居氏)
・地域の細かいことについても一緒に腹を割って話すために、地域の自治会に加入するのは手法の一つだと思う。全ての人と馴染む必要はなく、ターゲットに寄り添い、地域の誰かに必要とされていれば良いのではないかと思う。
(蒲生氏)
・答えはないと思うが、村社会ではないのでまちとして考えると無理に地域と関わろうするのではなく、自身の望ましい距離感で元々住んでいた地域住民と関わっていくほうが大切ではないかと考える。
(2) 外国人からの物件探しや移住の相談はあるのか
(地元住民)
・外国人が増えている印象を受けるが、外国人から物件探しや移住の相談を受けることはあるか。
(山居氏)
・小田原市には日本語学校があり、地域に住んでいる外国人もそれなりにいる。個人で店を経営したいと希望される人もいる。参入の関り方については国内外問わず、地域に長く住んでいただけるかどうかで判断し、案内している。
(蒲生氏)
・実績はまだないが、移住の問合せは増えてきた。店舗として出店したいという話はまだない。
(3) 見えない魅力を可視化するうえで注意していることはあるか
(大学生)
・空家のイメージをマイナスからプラスに変える活動をしている。事例紹介の中で「可視化」という言葉があったが、見えない魅力を可視化するうえで注意していることはあるか。
(山居氏)
・良く見せすぎないことに注意している。店舗を経営するうえで様々な苦労があるなど、マイナスの部分も見せるようにしている。店舗に限らず、物件紹介では良く見せても実際と異なる場合、内見で時間を無駄に使うこともあるため、飾らずに紹介することを意識している。
(蒲生氏)
・地元に住んでいる人たちでは当たり前のつもりが、地元以外の人には驚きとなることが多くある。地域に焦点を当てたときには特に、当たり前と思っていることに高付加価値が隠れていることもあるため、日常に着眼点を持っていくことが大切だと思っている。


今回の共創サロンをきっかけに、西部地区の空家・空き店舗等の利活用を促し、空家等の解消につながると共に、持続していくよう、地域のみなさまにおかれましても、ご支援・ご協力をいただければ幸いです。
今後も、いただいた意見等を踏まえ、西部地区における様々な「まちぐらし事業」や「まちを学ぶ場の提供」などの取組を進めていきます。
また、「函館西部地区ニュース」では、本サロンの開催の様子をはじめ、西部地区再整備事業の取組やイベントの様子、西部地区で活動されている方へのインタビューなどを配信していますので、ぜひ、ご覧ください。
主催
函館市(函館市西部まちぐらしデザイン室)、株式会社はこだて西部まちづくRe-Design、株式会社Staple
協力
函館市西部地域振興協議会