共創のまちぐらし
令和6年10月9日(水)にNIPPONIA HOTEL 函館 港町(豊川町11番8号)において、地域住民等30名の参加のもと、函館市西部地区再整備事業基本方針に定める「共創のまちぐらし推進プロジェクト」の一環として、「函館西部まちぐらし共創サロン」を開催しました。(開催のお知らせはこちら)
令和6(2024)年度 第3回 函館西部まちぐらし共創サロン 開催結果(概要)
開催日時
令和6年(2024年)10月9日(水)午後3時から午後6時まで
開催場所
NIPPONIA HOTEL 函館 港町(豊川町11番8号)
開催趣旨
函館市西部地区再整備事業基本方針に掲げる重点プロジェクトの一つである「共創のまちぐらし推進プロジェクト」における取組として、令和4年度(2022年度)から、「西部地区における共創のまち育て」をコンセプトに、地域住民をはじめ、市民やまちづくりに関わる参加者が西部地区の未来を考え、共有し、まちぐらしを語り合う場として「函館西部まちぐらし共創サロン」を開催しています。
開港以来、海外の文化を受け継ぎ、異国情緒豊かな町並みが魅力となっている西部地区では、新しいものに挑戦する精神が根付いており、歴史的建造物を改装した飲食店で提供される各国の料理やお酒、函館バル街など「食」においてもまた新しい文化が生まれています。
そこで、今回は、函館の地域資源である食の魅力や地域課題を学び、味わう体験を通して、地域の価値を再認識するとともに、新たな観光コンテンツの可能性を探り、食の担い手育成や歴史的な建造物や町並みを活かしたまちづくり、ひいては定住・関係人口の増加や空家等の解消につながることを期待し、「食の魅力を活かす西部地区のまちづくり」をテーマに、6名のゲストを招き、地域課題の象徴となる食材を使用する料理対決や食にまつわるトークセッションを行いました。
開催内容
1. テーマ食材の発表
有限会社マルショウ小西鮮魚店 代表取締役 小西 一人 氏から、今回のテーマ食材として「オオズワイガニ」を紹介いただきました。
オオズワイガニは、噴火湾で行われる「えびかご漁」や「刺し網漁」において、本来の目的であるボタンエビやカレイではなく、オオズワイガニが大量に網に入ってしまうことから、「海の厄介者」と呼ばれていますが、味は非常に良いため、イカやサケが不漁の中、食材として活用する動きが広まっているそうです。
共創サロンの冒頭に、食に関する地域課題や新しい魅力を共有することで、この後の展開への理解が深まったと思います。
2. トークセッション
株式会社はこだて西部まちづくRe-Design 代表取締役 北山 拓 氏の進行のもとゲスト3名から順に取組を紹介いただくとともに、事前に参加者から寄せられた質問を中心に食にまつわるトークセッションを行いました。参加者のみなさんは、熱心にメモを取るなど真剣に聞き入っており、テーマについて考える機会につながったと感じました。
(1)有限会社マルショウ小西鮮魚店 代表取締役 小西 一人 氏
【紹介内容】
・全国の飲食店に魚を発送している。当時、函館では誰も知らなかった「神経締め」という技術で付加価値のある商品を届けることで、ハイクオリティな飲食店に支持されてきた。
・元デザイナーなので、商品のブランディングにも力を入れている。
・漁師に「神経締め」の技術を伝え、船上で「神経締め」していただいたり、昆布が生息する海域で育ったウニは加工まで漁師に依頼するなど、産地の漁師との協力・連携も行っており、付加価値のある商品づくりに取り組んでいる。
・「神経締め」講座など、漁師や鮮魚店に魚の処理方法を共有し、質の高い商品づくりのための勉強会を開催している。
・SNSでの発信も行っており、コロナ禍でも顧客に情報を届けることができた。
・顧客のニーズに合わせた対応を心がけている。
・函館市にとって、観光や魚食文化は重要。生産者や料理人などとのコミュニティをつくり、函館に暮らす人のクオリティ・オブ・ライフ向上にも取り組みたい。
(2)NIPPONIA HOTEL 函館 港町 シェフ 齋藤 寿樹 氏
【紹介内容】
・運営会社であるバリューマネジメント株式会社は、人口減により税収等だけでは保全できない神社や仏閣、城などの歴史的建造物を所有者から借りて、建物の面影を残したまま、ホテル等の運営を全国で展開しており、例えば、平安神宮会館(京都市)でのウエディングや大洲城(愛媛県大洲市)での宿泊などを運営している。
・「NIPPONIA HOTEL 函館 港町」は、2021年4月にオープンした。「函館のシンボル、赤レンガ倉庫に泊まる」をコンセプトに、明治時代に建てられたコンブ倉庫を当時の煉瓦や梁、柱を活かし、歴史を感じながら宿泊していただくよう改装した。各部屋の浴室では、がごめコンブを入れたお風呂を楽しんでいただいている。
・料理は、新鮮な魚介や塩辛など地域の食材を北欧のスタイルで提供している。自身は黒子に徹し、食材や生産者をそのままお客様につなげることが一番大きなミッションと考えている。料理を召し上がっていただき「美味しい」と評価いただくことはもちろん嬉しいが、「この料理に使っていた食材が美味しいからお土産に購入しよう」と思っていただくことが大事なので、食材や生産者のストーリーをお客様に届けることを心がけている。
・お客様と一緒に水産物卸売市場に出かけ、せりを見学し、小西鮮魚店で魚を目利きし、買い付けした魚を調理して朝食として提供している。
・食育にも貢献したいという思いから、北海道函館西高等学校の生徒と保護者を招き、市場の見学とイクラ作りを行うイベントを開催した。
・他店舗の料理人とのコラボも行っており、今回の共創サロンも料理人たちの勉強会が発端。お客様にクオリティの高い料理を提供し、どれだけ函館のことを感じていただけるかという思いから企画した。
(3)「味道 -MIDO- 」運営 Chef’s Link株式会社 代表取締役 髙木 万海 氏
【紹介内容】
・2023年に、日本の食文化を永く守り、グローバルに発展させ続けることを目的とした文化プロジェクト「味道 -MIDO- 」を立ち上げた。
・茶道や武道など「道」という日本独特の概念を食の世界に持ち込むことによって食の価値を高められるのではないかという思いから「味道 -MIDO- 」と名付けた。
・日本は、ミシュランの星の数が世界の都市の中で上位を独占しており、また、和食が世界無形文化遺産に登録されるなど、世界から注目されている一方、食の担い手が減少していることから、日本の食文化の継承を目的に活動している。
・一般社団法人全日本・食学会日本の協力もと、トップシェフの秘伝の技やレシピを映像化した動画配信サービスを運営。料理人をターゲットに、料理動画やインタビュー動画などこれまで約200本制作した。
・地域の活性化事業にも取り組んでおり、その一環として、昨年、函館を舞台に、「鮮魚店の哲学」と題した函館の水産業の課題と解決に向けた取組をテーマとした動画を制作した。小西鮮魚店の主な発送先が本州という話があったが、函館の魚は、地域外からは注目されている一方、地域内では価値に気が付いていない方が多いのではないかと感じている。地域の魚食文化を大事にしなければ、担い手の減少につながり、食の価値を十分に高められないので、地域内に魚食文化の価値を届けることを意識した。
(4)質疑応答
① 函館の食材で対外的に魅力の大きいものやポテンシャルを感じるもの、プッシュしたいものは何か。
(小西氏)
・函館にUターンした15年くらい前はサケだったが、次第に獲れなくなったので、次はブリ。特に積丹で獲れるブリは良い。今年は函館でカツオが獲れるので、逆に産地として有名な気仙沼に発送したところ、赤身が特に美味しいとの評価だった。
・北海道はポテンシャルがあると感じている。個人的には、ワタリガニが大量に獲れるので、ケジャンを作って経営する飲食店で出している。
(齋藤氏)
・SDG’sの観点でもエゾシカ。道東や道央のエゾシカと道南のエゾシカは味が違う。どのような環境で育ち、どのようなエサを食べているかで全く味が変わってくる。道南のエゾシカの特徴は、複雑な味わいで肉としての旨味があることが特徴。
・他には、天然のきのこ。地域のみなさんにとっては当たり前かもしれないが、スーパーにボリボリやアワダケが並んでいることは素晴らしい。価値がある。
・野菜では、ニラ、くりりんかぼちゃ、キクイモなどたくさんあり、どれか一つは選べないが、逆に言うとどれも良い。
・はこだて和牛は、全国的には黒毛和種が多い中、褐毛和種であり素晴らしい食材だと思う。
(髙木氏)
・昆布は日本固有の食材であり、日本の食文化に欠かせない食材なので、他の産地に負けないように函館の昆布の価値に再注目することも大事と思う。
② 食材の魅力を伝えるための方法や課題は何か。
(小西氏)
・他の地域で暮らしたからこそ感じることだが、函館の魚介は本当に美味しく、価値がある。「味道 -MIDO- 」の取組のように地域外から評価・発信していただくことで函館の食材の魅力を伝えることができると思う。
(齋藤氏)
・函館は、海の食材も山の食材も豊富でどれも良いので、逆に一つに絞れない。全部PRしようとすると食の魅力が埋もれてしまうことが課題。食材を料理にしたときにどのように発信できるかが課題。食材が良いと、ただ切って出すだけで美味しいが、食材の魅力を活かしながら料理店や料理人の特色を出すことでより魅力が伝わるので、料理人が増えることも課題を解決する方法の一つだと思う。
(髙木氏)
・地域の方が函館の食材をどのくらい誇りに思っているのか知りたいところ。最近では自分で出汁を取らない方も増えているが、たまに出汁を取ってみたり、食に触れる機会を増やすことで食の魅力や価値を再認識する、そういったことの積み重ねが食文化を作っていくと思う。
③ B級グルメにスポットが当たりがちだが、A級グルメを普及させる方法やアイデアはあるか。
(小西氏)
・料理人が地域の食材を使用すること。さらに齋藤シェフのように、市場にお客様を案内するなど観光体験を提供したり、ストーリー性を味わったり、お客様にテーマを提供することで付加価値が出るのではないか。
・ハイクオリティなものは、希少性・専門性のあることが大事。料理人にあわせオーダーメイドで食材を仕上げることで、お客様に特別感を提供できると思う。
(齋藤氏)
・食材や料理の価値を伝えることが大事。例えば、塩ラーメンの場合、どこの塩ラーメンが、どのように作られているのか、どのような特色があるのか、ということをきちんと打ち出していけば、観光客にとっては2000円の価値を感じられる可能性があると思っている。
・函館に住んでいる方々が食材や料理の価値に誇りを持っているかどうかも大事。
(髙木氏)
・外部投資の環境整備と雰囲気づくりの2点が大事と思う。もっと多くの方が場所を活用できる環境づくり、料理人が入りやすい環境を整えることが大事である。また、函館は魚が獲れる産地でありながら、魚を食べる消費地でもあり、日本の中でも非常に珍しいので、生産や流通にも反映できると思う。地域の強みをどれくらい武器にしていくかという雰囲気づくりも大事。地域外に修行に出た料理人が函館に戻ってくるきっかけにもなると思うので、この2点が大事だと思う。
④ 「神経締め」は、カレイ以外の魚にも使える技術か。
(小西氏)
・どの魚にも「神経締め」は使える。元々は、マグロによく使われている技術で、船上でマグロが暴れると危険なので大人しくさせるために「神経締め」を使っていたが、鮮度保持や旨味向上につながるということが知られるようになり、SNSの普及もあり、どんどん広まっていった。
・世界的に見ても、「神経締め」や「コールドチェーン(生産から消費地まで一定の温度(低温、冷蔵、冷凍)を保ちながら流通させる仕組み)」など、ここまで高度に行っているのは日本だけなので、今後はもっとグローバルに展開していけるような技術・仕組みなのではないかと思う。
3. 料理対決
ゲストとして、菊川はなれ 花板 菊池 隆大 氏、輝なり/群青 店主 白戸 光 氏、NIPPONIA HOTEL 函館 港町 スーシェフ 駒井 奎太 氏の3名を招き、各店の若手料理人も交えた6名を2チームに分け、料理対決を行いました。事前に食材を知らされていないため、限られた時間内に、食材の魅力を引き出すレシピを考え、調理しなくてはなりません。料理人の腕とチームワークが見所です。
トークセッションの中盤には、参加者に厨房を見学していただきました。特に、料理人を目指す方にとっては、調理工程を間近に見られる貴重な機会となったのではないでしょうか。
できあがった料理を実食していただいた後、食材の魅力をより引き出したと思うチームに投票していただきました。料理人の解説を聞きながら味わう体験をすることで、食の魅力をより実感することができたようです。
開催結果
今回、参加者から寄せられた主な意見は次のとおりです。
- シェフ達の料理を通して、函館の街を盛り上げ、より魅力的にしようと取り組んでおられる姿を間近で見られて良い刺激を受けました。このような機会がまたあれば嬉しいと思います。
- 函館の価値あるものを見つけ、人が求める商品にするための仕事ぶりは、函館人として誇らしく、私がそうしてもらったように、未来の子どもたちにも味わいを知ってほしいなと気付かされました。丁寧な食事をしよう!自分の体の将来は、函館で食べるものでできていくものだから、と思いました。参加者さんの今後のご活躍を応援しています。
- まず、会場の雰囲気がとても良かったです。また、パネリストのトークも良かったです。できたら、肉料理も堪能させていただきたかったと思います。
- 全体の流れや食事のボリュームなどをもう少し詳しく事前にお知らせいただけるとありがたいです。会場が少し寒かったです。全体の感想としては、本当に楽しく勉強になりました。自分の食生活を見直したい、函館の豊かな食材をもっと意識したいと強く思いました。最近、近所の魚屋さんが閉店しスーパーばかり行っていましたが、遠くても魚屋さんで魚を買おうときめました。素敵な会をありがとうございました。
- ホテル雰囲気や取組を学ぶことができ、満足しました。また、各パネラー様の話も大変参考になりました。ただ、料理対決に関しては、それぞれのチーム1品だったので、もう少し品数を増やし、それぞれの料理人の想いや感想を述べる場面もあっても良いのではと思いました。
- 試行錯誤を重ねて皆さん努力されていることを知り、大変勉強になりました。しかし、料理対決にはあまり意味がないように感じました。それよりは、数種類の食材で何皿かのお料理を出していただけたら良かったと思います。
今回の共創サロンをきっかけに、食の魅力を活かしたまちづくりが推進され、歴史的建造物等の利活用や定住・関係人口の増加につながるよう、参加者をはじめ、地域のみなさまにおかれましても、ご支援・ご協力をいただければ幸いです。
今後も、いただいた意見等を踏まえ、西部地区における様々な「まちぐらし事業」や「まちを学ぶ場の提供」などの取組を進めていきます。
また、YouTubeチャンネル「函館西部地区ニュース」では、本サロンの開催の様子をはじめ、西部地区再整備事業の取組やイベントの様子、西部地区で活動されている方へのインタビューなどを配信していますので、ぜひ、ご覧ください。
主催
函館市(西部まちぐらしデザイン室、経済部食産業振興課)、株式会社はこだて西部まちづくRe-Design、バリューマネジメント株式会社
協力
函館市西部地域振興協議会、Chef’s Link株式会社